私好みの新刊 2020年09月
『線と管の ない家』 森枝卓士/文・写真 (たくさんのふしぎ 3月号) 福音館書店
ちょっと風変わりな本が出た。そもそものきっかけは東日本大震災にあるという。
東日本大震災では、水道やガスといったライフラインも根こそぎ破損した。電気も自
前で得られるような家はできないか、著者たちは考えた。「線と管のない家」を模索
した。一軒の家だけでなしに、地域だけのスマート発電(小地域発電)も試行されている。
はたしてどんな家ができたのだろうか。
はじめに、大都会の夜、光行と明るく輝いた都会生活が写し出される。さてそれら
の電気はどこから来るのか、道をたどっていくと、はるか遠くの海岸にある火力発電
所や山あいにある水力発電所にたどり着く。そこから都会の各家庭まで、はるばると
送電線を通じて電気は送られている。今は、水道水もガスもそうだ。「もしも発電所
がこわれたら?」「もしも、水道の管が途中で破損したら?」「もしも、都市ガスが止
まったら?」・・・東日本大震災では、上記の「もしも、・・・」が実際に起きた。
そのような事態を心配しなくていい家はできないのだろうか。著者たちは考えた。
まず一つは節電につとめること、ソーラーパネル、温水器付きの家を考えた。
電気の来ない家、水道も引いていない家」を設計した。夏のエアコンはいらなくてい
いように風通しをよくした。冬のエアコン代わりに薪ストーブを用意した。水は雨水
をたくわえ、ろ過して飲料水、食器洗いにも使えるようにした。トイレも簡易水洗ト
イレとし、生ごみと一緒に発酵させ、野菜畑の肥料に使用できるようにした。これで
「遠くからくる電気や水道、ガスなどのお世話にならずに、生きていけるシステムが
できあがった」と書いている。
これからは「エネルギー」の源を自分で考え直すべき時に来ているのではと提案して
いる。広い平野に、楽しいスマートな家が出来た。 2020年3月 700円
『恐竜ガールと情熱博士と』 秡川学/著 小学館
表紙に「福井県立恐竜博物館誕生秘話」と書かれている。今や各地の自然系博物館に
は恐竜化石の展示は欠かせられない存在であるが、恐竜博物館と名がついている博物
館はこの「福井県立恐竜博物館」と熊本県にある「御船町恐竜博物館」ぐらいである。
その「福井県立恐竜博物館」誕生には数々のドラマがあった。
この本は、「福井県立恐竜博物館」誕生のいきさつについてストーリー仕立てで読み
やすく書かれている。著者はルポライター。字も大きいので小学生でも読みやすい。
一部漫画も含む。
もともと、日本列島は3000万年ほど前に大陸から離れて出来た島国である。大陸で
は、恐竜化石がたくさん見られるので、日本列島にもたくさんの恐竜化石が出て当然と
思われていた。日本列島にも恐竜化石の出る中生代地層はたくさん出ている。1978年に
岩手県で初めての恐竜化石が発見されたことをきっかけに、日本各地で恐竜化石の発見
が相次ぐようになった。その一つが、この「福井県立恐竜博物館」の誕生のきっかけに
なった、石川県の白峯(白山市)やとなりにある福井県勝山市の中生代地層だった。
きっかけは、ある観察会に参加してなにか不思議な化石らしいものを拾った少女にあ
った。運よく化石専門家の鑑定により恐竜化石と判定されたことからこの話は始まる。
石川県で発見されたのなら、この福井でも発見されるはずと見込んだ福井県立博物館の
学芸員、東洋一さんが、教育委員会や市長をくどいて大々的な発掘調査をしたことが大
きく花を開いた。全身骨格の恐竜化石も発掘された。次々と出てくる恐竜化石を見て県
内に恐竜博物館建設の機運が高まってくる。地主もくどいた。海外からの資料収集など
大変な作業をなし終えてついに「福井県立恐竜博物館」が誕生した。それまでの経緯が
実名入りでお話仕立てで書かれている。 2020年 2月 1,200円